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最高裁判所第三小法廷 平成6年(オ)1838号 判決 1998年4月28日

上告人

キシンチャンド・ナラインダス・サドワニ

上告人

サドワニス・ジャパン有限会社

右代表者取締役

キシンチャンド・ナラインダス・サドワニ

右両名訴訟代理人弁護士

山本忠雄

被上告人

ゴビンドラム・ナラインダス・サドワニ

右訴訟代理人弁護士

志賀剛一

森島庸介

被上告人

ビヌー・ゴビンドラム・サドワニ

右両名訴訟代理人弁護士

松尾翼

西山宏

土井悦生

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

本件は、平成九年(一九九七年)七月一日に中華人民共和国に返還される以前の香港において香港高等法院がした訴訟費用負担の裁判について、被上告人らが民事執行法二四条に基づき執行判決を求めた事案である。民事執行法二四条三項は、本件が当審に係属した後に、平成八年法律第一一〇号によって改正されたので、所論のうち旧民訴法二〇〇条各号の解釈適用の誤りをいう部分は、同条に対応する民訴法一一八条各号の解釈適用の誤りをいうものとして、判断をすることとする(以下、上告人キシンチャンド・ナラインダス・サドワニを「上告人キシンチャンド」と、上告人サドワニス・ジャパン株式会社を「上告会社」と、被上告人ゴビンドラム・ナラインダス・サドワンを「被上告人ゴビンドラム」と、訴外ラディカ・キシンチャイド・サドワンを「訴外ラディカ」と、訴外バンク・オブ・インディアを「訴外銀行」という。)。

一  上告代理人山本忠雄の上告理由第一について

民事執行法二四条所定の「外国裁判所の判決」とは、外国の裁判所が、その裁判の名称、手続、形式のいかんを問わず私法上の法律関係について当事者双方の手続的保障の下に終局的にした裁判をいうものであり、決定、命令等と称されるものであっても、右の性質を有するものは、同条にいう「外国裁判所の判決」に当たるものと解するのが相当である。

これを本件について見ると、記録によれば、(1) 香港においては、具体的に訴訟費用を負担すべき者、その負担割合等は、本案判決においてではなく、勝訴者から申し立てられる訴訟費用負担命令において定められること、(2) 香港高等法院は、上告人ら、被上告人ら及び訴外銀行等の間の後記第一訴訟ないし第四訴訟について、昭和六三年(一九八八年)四月二七日、実質的に被上告人ら勝訴の本案判決を下し、右判決は確定したこと、(3) 被上告人らは、同年五月一一日、上告人ら及び訴外銀行に対する訴訟費用負担命令の申立てをしたこと、(4) 香港高等法院は、上告人らの代理人の聴聞手続を経た上で、同年八月三一日、上告人ら及び訴外銀行に対する訴訟費用負担命令(以下「本件命令」という。)を発したこと、(5) その後、上告人らの負担すべき訴訟費用額の査定が行われ、本件命令並びにこれと一体を成す平成元年(一九八九年)一〇月三日付け費用査定書及び同年九月一二日付け費用証明書(以下、併せて「本件命令等」という。)により、上告人らは、被上告人らに対して合計120万2585.58香港ドルの訴訟費用額の償還を命じられたことが認められる。右の事実によれば、本件命令等は、前記の「外国裁判所の判決」に当たると認めるのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

二  同第二について

判決等によって支払を命じられる金員に付随して利息等が発生する場合に、これを判決等に記載するか、又は判決等には記載せず法令の規定によって執行力を付与するかは、各国の法制度によって異なるところであるが、その相違は多分に技術的な面によるところが大きく、したがって、外国裁判所の判決等に記載がない利息等についても、我が国における承認・執行の対象とすることができないものではない(最高裁平成五年(オ)第一七六一号同九年七月一一日第二小法廷判決・民集五一巻六号二五三〇頁参照)。

記録によれば、(1) 本件命令等には、上告人らが負担すべきものとされた訴訟費用に関し、遅延利息について何ら記載がないこと、(2) しかし、香港法上、金銭給付判決等については、高等法院の個別の命令がない場合には、法定の遅延利息が当然に発生するものとされており、その利率は、随時、香港最高法院首席裁判官が命令によって定めるものとされていたこと、(3) 本件命令等については、高等法院の個別の命令は記載されておらず、香港最高法院首席裁判官の命令により、第一審判決別紙利息計算表に記載のとおり、本件命令が発せられた日の翌日である昭和六三年(一九八八年)九月一日以降の遅延利息の利率が定められたことが認められる。右の事実によれば、本件命令等に記載のない右利息計算表記載の利率による遅延利息についても、我が国における承認・執行の対象とすることができるものとした原審の判断は、正当として是認することができる。

また、所論は、原審が遅延利息発生の理由及びその利率の正当性について判断していないことの違法をいうが、我が国の裁判所としては、右のような裁判の当否については調査し得ないものというべきである(民事執行法二四条二項)。

原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

三  同第三について

記録によれば、本件命令等の各不服申立期間内に上告人らが所定の不服申立ての手続をとっていないことが明らかであり、本件命令等が確定したものとした原審の判断は、結論において是認することができる。また、民事執行法二四条三項の規定に照らすと、外国裁判所の判決等が確定したことの証明方法は、いわゆる確定証明書の提出に限られないものというべきである。

論旨は採用することができない。

四  同第四について

1  民訴法一一八条一号所定の「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは、我が国の国際民訴法の原則から見て、当該外国裁判所の属する国(以下「判決国」という。)がその事件につき国際裁判管轄(間接的一般管轄)を有すると積極的に認められることをいうものと解される。そして、どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては、これを直接に規定した法令がなく、よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理に従って決定するのが相当である。具体的には、基本的に我が国の民訴法の定める土地管轄に関する規定に準拠しつつ、個々の事案における具体的事情に即して、当該外国判決を我が国が承認するのが適当か否かという観点から、条理に照らして判決国に国際裁判管轄が存在するか否かを判断すべきものである。

2  本件命令等は本案判決の付随的裁判である訴訟費用負担の裁判であるから、本件命令等について香港に国際裁判管轄が認められるか否かは、原則として、その本案判決について検討すべきものであると解される。

3  これを本件について見ると、原審は、(1) 訴外銀行が被上告人らを相手方として保証債務の履行を求めた第一訴訟については、被告とされた被上告人らの住所地の裁判籍(旧民訴法二条一項)が香港に存在するものとして、(2) 被上告人らが、第一訴訟の債務を履行することを条件として、訴外銀行と上告人キシンチャンド及びその妻である訴外ラディカの三名を相手方として、訴外銀行が右上告人らに対して有する根抵当権につき訴外銀行に代位する旨の確認を求めた第二訴訟については、訴外銀行に対する本来の反訴についてのみならず、上告人キシンチャンド及び訴外ラディカに対する訴えについても、第一訴訟と同一の実体法上の原因に基づく訴訟であって、これと密接な関連があることから、併合請求の裁判籍(旧民訴法二一条)が香港に存在するものとして、(3) 上告人ら及び訴外ラディカの三名が、後記第三訴訟に対抗して、被上告人らを相手方として、被上告人ゴビンドラムのみが保証債務を負担することの確認を求めた第四訴訟については、第三訴訟に対する反訴の性質を有することから、第三訴訟の裁判籍が香港に存在することを前提として、それぞれ、判決国である香港に国際裁判管轄を認めたものであるところ、右の原審の判断は、同趣旨の土地管轄に関する規定を有する現行民訴法の下においても、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。

4  一方、第三訴訟は、被上告人らが、第一訴訟の請求認容を条件として、上告人ら及び訴外ラディカの三名を相手方として、求償権を有することの確認を求めるものであり、英米法系に固有の訴訟形態である第三当事者訴訟(サード・パーティ・プロシーディング)の性質を有するものである。しかるところ、第三訴訟の被告とされた者のうち上告人キシンチャンド及び訴外ラディカは、同時に第二訴訟の被告でもある上、第二訴訟と第三訴訟は、いずれも、上告人らと訴外銀行との間で締結された起訴契約に基づき被上告人らに対して提起された第一訴訟が認容された場合に、根抵当権の代位行使ないし求償請求ができることの確認を求めるものであり、同一の実体法上の原因に基づく訴訟であって、相互に密接な関連を有しているから、統一的な裁判をする必要性が強いということができる。これらの事情にかんがみると、第三訴訟については、民訴法七条の規定の趣旨に照らし、新たに被告とされた上告会社に対する訴えを含め、第二訴訟との間の併合請求の裁判籍が香港に存在することを肯認して香港の裁判所のした判決を我が国で承認するのが、当事者間の公平、裁判の適正・迅速の理念に合致するものであり、条理にかなうものであると考えられる。したがって、第三訴訟について香港に国際裁判管轄を認めた原審の判断は、結論において是認することができる。

5  以上の次第で、論旨は採用することができない。

五  同第五について

1  記録によれば、(1) 被上告人らは、昭和六三年(一九八八年)五月一一日、上告人らに対する本件命令の申立てをしたこと、(2) 右申立てを受けた香港高等法院は、インド国籍を有する神戸市在住の上告人キシンチャンド及び日本法人である上告会社に対して「ノーティス・オブ・モーション」を送達する許可をしたこと、(3) 右ノーティス・オブ・モーションは、同年七月二六日、被上告人らから私的に依頼を受けた日本の弁護士を通じて上告人らに直接交付されたこと、(4) 上告人らは、右ノーティス・オブ・モーションの審理について香港在住の弁護士を代理人に選任し、同年八月二五日、同代理人関与の下にその審理が行われたこと、(5) 上告人らの代理人は、前記第三訴訟について香港の国際裁判管轄を争っていたことが認められる。

2  所論は、要するに、右直接交付による送達は、国際司法共助条約の定める方式を履践していなから、上告会社に対する関係では民訴法一一八条二号所定の「送達」の要件を満たしておらず、また、攻撃防御を行うに先立ち香港の国際裁判管轄を争っていたのであるから、同号所定の「応訴」の要件も満たしていない、というものである。なお、上告人キシンチャンドに対する関係で同号所定の要件を満たしているか否かについては、職権で判断を加える。

3  ところで、民訴法一一八条二号所定の被告に対する「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」は、我が国の民事訴訟手続に関する法令の規定に従ったものであることを要しないが、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。のみならず、訴訟手続の明確と安定を図る見地からすれば、裁判上の文書の送達につき、裁判国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではないと解するのが相当である。

これを本件について見ると、我が国及び当時香港につき主権を有していた英国は、いずれも「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」の締結国であるところ、本件のような被上告人らから私的に依頼を受けた者による直接交付の方法による送達は、右条約上許容されていないのはもとより、我が国及び英国の二国間条約である「日本国とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国との間の領事条約」(いわゆる日英領事条約)にもその根拠を見いだすことができない。そうすると、上告人らに対する前記ノーティス・オブ・モーションの送達は、同号所定の要件を満たさない不適法な送達というべきである。

4  他方、民訴法一一八条二号所定の被告が「応訴したこと」とは、いわゆる応訴管轄が成立するための応訴とは異なり、被告が防御の機会を与えられ、かつ、裁判所で防御のための方法をとったことを意味し、管轄違いの抗弁を提出したような場合もこれに含まれると解される。前記の事実によれば、前記ノーティス・オブ・モーションの審理について、上告人らが同号所定の応訴をしたことは明らかである。

5  そうすると、上告会社に対する関係においては、本件命令等は、民訴法一一八条二号所定の要件を具備しているものというべきである。この点に関する原審の判断は、結論において是認することができ、論旨は採用することができない。また、上告人キシンチャンドに対する関係においても、本件命令等は、同号所定の要件を具備していることが明らかである。

六  同第六について

訴訟費用の負担についてどのように定めるかは、各国の法制度の問題であって、実際に生じた費用の範囲内でその負担を定めるのであれば、弁護士費用を含めてその全額をいずれか一方の当事者に負担させることとしても、民訴法一一八条三号所定の「公の秩序」に反するものではないというべきである。

記録によれば、本件においては、上告人らに不誠実な行動があったことが考慮されて、いわゆるインデムニティ・ベイシスの基準が適用され、弁護士費用を含む訴訟費用のほぼ全額が上告人らの負担とされたものであるところ、香港の裁判所においてこのインデムニティ・ベイシスの基準が適用されるのは特別の場合であり、懲罰的な評価が含まれていることが認められるが、他方、本件命令等により上告人らに負担が命じられた訴訟費用の額は実際に生じた費用の額を超えるものではないから、本件命令等の内容が我が国の公の秩序に反するということはできない。これと基本的に同趣旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、いわゆる懲罰的損害賠償と対比してインデムニティ・ベイシスの基準による訴訟費用負担の違法をいう論旨は、採用することができない。

また、所論は、香港高等法院の本案判決は、被上告人らが詐取したものであり、手続的公序に反するというが、その実質は、右本案判決における認定判断が証人の誤導的な証言の結果によるというものであって、証拠の取捨判断の不当をいうものであるところ、我が国の裁判所としては、右のような証拠判断の当否については調査し得ないものであり(民事執行法二四条二項)、論旨は採用することができない。

七  同第七について

民訴法一一八条四号所定の「相互の保証があること」とは、当該判決等をした外国裁判所の属する国において、我が国の裁判所がしたこれと同種類の判決等が同条各号所定の要件と重要な点で異ならない要件の下に効力を有するものとされていることをいうと解される(最高裁昭和五七年(オ)第八二六号同五八年六月七日第三小法廷判決・民集三七巻五号六一一頁参照)。

記録によれば、(1) 香港においては、外国判決の承認に関して外国判決(相互執行)法及び同規則が存在し、香港総督の命令により、相互の保証があると認める国を同規則に特定列挙していたこと、(2) 我が国は、相互の保証のある国として同規則に列挙されてはいなかったこと、(3) しかし、香港においては、外国判決の承認に関して、制定法に基づくもの以外に英国のコモン・ローの原則が適用されていたこと、(4) コモン・ローの下においては、外国裁判所が金銭の支払を命じた判決は、原判示の要件の下に承認されていたことが認められる。そして、コモン・ローの下における右外国判決承認の要件は、我が国の民訴法一一八条各号所定の要件と重要な点において異ならないものということができ、したがって、香港と我が国との間には、外国判決の承認に関して同条四号所定の相互の保証が存在したものと認めるのが相当である。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官千種秀夫 裁判所園部逸夫 裁判所尾崎行信 裁判所元原利文 裁判所金谷利廣)

上告代理人山本忠雄の上告理由

原審判決(第一審判決を引用している)は、以下に述べるとおり、民事訴訟法第二〇〇条一号、第二号、第三号、第四号並びに民事執行法二四条の解釈を誤ったものであり、「判決ニ影響ヲ及ボスコト明ナル法令ノ違背アルコト」が明らかであり、且つ、判断を逸脱して判決したもので理由不備ないし理由齟齬の違法があり、破棄を免れ得ないものである。

第一、原審判決は、民事執行法二四条について、法律の解釈適用を誤って、本件訴訟費用負担命令及び本件費用査定書と本件費用証明書について、外国確定判決該当性を認定した違法がある。

一 原審判決は、右の点について、

「1 民事執行法二四条、民訴法二〇〇条に規定する外国裁判所の「確定判決」とは、外国裁判所がその形式・名称の如何を問わず、実体私法上の法律関係につき、当事者双方の手続保障のもと、終局的にした裁判で、通常の不服申立の方法では不服を申立てることができなくなったものを指称し、外国裁判所の決定、命令であっても、右性質を有するものであれば、右確定判決に含まれると解するのが相当である。」(第一審判決二五枚目表一行目乃至同七行目)と判示し、

「2 そして、本件命令は、前記一4認定のとおり、訴訟費用に関して、原告ら及び被告らの手続保証のもと(この点については後記五2(五)、三(二)、(三)判示のとおり)、終局的になされた裁判(命令)であり、前記一4認定のとおり、本件命令及びこれと一体をなす本件費用査定書と本件費用証明書(併せて本件外国裁判所判決)が上訴なくして確定したことが明らかであるから、これらは、外国裁判所の「確定判決」にあたるというべきである。」(第一審判決二五枚目表八行目乃至同裏一行目)旨判示している。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、次とおりの法律の解釈を誤り、その適用を誤った違法がある。

我国民事執行法第二四条の解釈については、

「本条は、「判決」と規定しているので、判決以外のものについては適用がない。民訴法二〇〇条においても「判決」と規定されているので、同条も判決についての規定であるが、同法は、判決についての規定を決定、命令に準用している(民訴二〇七条)から、決定、命令についても外国裁判所の確定裁判はわが国においてその効力を承認されるとするのが一般的である。ところが、本法にはこれを決定、命令に準用する旨の規定はない。債務名義として認められているものも、確定した執行判決のある外国裁判所の判決と規定されているのみである(法二二条六号)。したがって、一応、判決についてのみ執行判決をなし得ると解すべきであろう。」(大橋寛明・注釈民事執行法2一〇八頁・社団法人金融財政事情研究会刊)とされている。

従って、前記の本件訴訟費用負担命令等は、外国裁判所の確定判決に該当せず、執行判決をなし得なかったにもかかわらず、原審裁判所はその判決をなした違法がある。

第二 原審判決は、民事執行法二四条について、法律の解釈適用を誤り、且つ判断を逸脱して、本件訴訟費用負担命令の主文に記載のない遅延利息についても承認の対象に含まれるとして認定した違法がある。

一 原審判決は、右の点について、

「3 ところで、外国判決の承認とは、当該外国判決が判決国で法律上有する効力をそのまま承認するものであると解するのが相当である。

そこで、判決国の民事訴訟制度において、金銭給付判決の附随的給付義務については主文の記載事項とせず、法令によって自働的かつ一義的に確定し、かつ執行力を付与するようなシステムを採用している場合には、当然その効力も承認の対象になるものと解するのが相当である。」(第一審判決二四枚目表十二行目乃至同裏六行目)旨判示して、上告人らに対し、その支払義務を認めた。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、次のとおり法律の解釈適用を誤った違法並に判断を逸脱した違法がある。

(一) 遅延利息を発生させる給付義務については、裁判による確認作業を経ているのに対して、遅延利息金自体は、裁判による確認作業を経ていないのであり、原審判決が「自動的」に遅延利息を生ずると認定したことは、両者を同列に扱うこととなり、許されない。

更に、

「外国判決の執行は、外国の公権力の行使としての裁判の結果を我国においても認めることによって国際私法秩序の安定を図ろうとするものであって、外国法上認められているからといって、現実に裁判所が具体的名宛人に対して支払を命ずるものでない以上、執行されるべき「判決」ではない」(道垣内正人「判例評釈」判例評論三九一号四七頁(判例時報一三八八号二〇九頁)のであり、本件遅延利息を承認の対象とすることは許されない。

(二) 又、原審判決は、本件訴訟費用負担命令に遅延利息金発生の理由並びにその利率が期間によって変動し、6.125パーセント〜13.11パーセントの割合で計算されたことの正当性も判断されておらず、判断を逸脱した違法がある。

第三 原審判決は、民事執行法第二四条について、判断を逸脱し、且つ法律の解釈適用を誤って、本件訴訟費用負担命令等(本件外国裁判所判決)が確定していると認定した違法がある。

一 原審判決は、右の点について、

「4 同4(本件外国裁判所判決の成立及び確定)の(一)ないし(三)の各事実、及び(四)のうち、本件命令が被告らの代理人の聴問をした上で出されたことを除くその余の事実は、当事者間に争いがない。」(第一審判決二三枚目表十一行目乃至同裏一行目)旨判示している。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、次のとおり判断を逸脱及び法律の解釈適用を誤った違法がある。

(一) 上告人らは、第一審裁判所に於て「本件訴訟費用負担の命令は確定していない」旨主張(平成四年二月四日付準備書面三、記載)しているにもかかわらず、これを看過して、原審判決は、前記のとおり「当事者間に争いがない」旨判示したものである。

従って、原審判決は、この点において判断を逸脱した違法がある。

(二) 我国民事訴訟法第二四条三項は、「外国判決の確定は、執行判決を求める当事者において判決国の裁判所等の作成した証明書の提出等によって証明しなければならない」(青山善充・注釈民事執行法(1)三九五頁・第一法規出版(株)刊)とされているところ、被上告人らは、本件訴訟費用負担命令が確定したことを証する香港裁判所の証明書を提出して、その確定の立証をしていないにもかかわらずこれを看過して、原審判決は、前記のとおり確定の認定をなしたものである。

(三) ところで、その確定の有無は、裁判所の職権調査事項であるところ、原審裁判所は、その十分な調査を怠って、審理不十分なまま判決した違法がある。

たしかに、第一審裁判所に於いて、鑑定人谷口安平教授により、「……確定証明とかいったようなものの制度はないようでございまして……そういうふうに考えられているんじゃないかと思うんですけども。」(鑑定人調書六二頁表十一行目乃至六四頁表一行目)との証言はあるが、しかし、右証言は、法律的書証による裏付けのないものであり、この点においても、裁判所はその十分的な裏付け調査をしないままに判決した違法がある。

第四 原審判決は、民事訴訟法第二〇〇条一号(外国裁判所の裁判権)について、法律の解釈適用を誤って、香港裁判所の裁判管轄権を認めた違法がある。

一、原審判決は、右の点について、

「(一)(1) 同条一号は、「法令又ハ条約ニ於テ外国裁判所ノ裁判権ヲ否認セサルコト」と規定しているところ、同号の趣旨は、当該外国裁判所が我が国の国際民訴法の原則からみて、その事件につき国際裁判管轄権を有する、すなわち、間接的一般管轄権を有すると積極的に認められたることを要求するにあると解するのが相当である。」(第一審判決二五枚目裏十一行目乃至同二六枚目表三行目)と判示し、

「(2) ところで、国際民事紛争について、当事者が我が国の裁判所に提訴したとき、我が国の裁判所が管轄権を有するかどうかという問題、すなわち、直接的一般管轄権の存否の判断と右間接的一般管轄権の存否の判断とは、表裏一体の関係にあり、本来、同一の法則によって規律されるべきところ、我が国には、国際裁判管轄を直接規定する法規もなく、よるべき条約、一般的に承諾された明確な国際法上の原則も確定していない。

そこで、このような現状のもとにおいては、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により、条理にしたがって決定するのが相当である。」(第一審判決二六枚目表四行目乃至同裏一行目)と判示し、

「(3) 従って、わが民訴法の国内の土地管轄に関する規定、たとえば、被告の住所・居所(民訴法二条)、法人その他の団体の事務所又は営業所(同法四条)、義務履行地(同法五条)、被告の財産所在地(同法八条)、併合請求の裁判籍(同法二一条)、その他民訴法の規定する裁判籍のいずれかが判決国たる香港にあると認められるときは、これらに関する訴訟事件につき、判決国たる香港に裁判権を認めるのが右条理に適い間接的一般管轄を肯定できるものと解するのが相当というべきである。」(第一審判決二六枚目裏二行目乃至同十行目)旨判示し、

「……本件命令等は、本案判決たる本件判決の訴訟費用の負担に関する附随的裁判であるから、本件命令等の裁判権の存在については本案判決たる本判決について論ずべきこととなる」(第一審判決二六枚目裏十一行目乃至同二七枚目表一行目)旨判示して、

①本件香港第一訴訟は、被上告人らの住所地の裁判籍を理由として

②本件香港第二訴訟は、併合請求を理由として

③本件香港第三訴訟は、義務履行地の裁判籍を理由として

④本件香港第四訴訟は、右第三訴訟に対する反訴の性格を有するので、第三訴訟の裁判籍を前提として

香港裁判所に本件香港第一訴訟ないし第四訴訟すべてについて、間接的国際裁判管轄を有しており、その附随的裁判たる本件命令等についても同裁判所は裁判管轄権を有していると認定した。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、右の点について、次のとおり法律の解釈適用を誤った違法がある。

(一) 上告人らは、本件香港第二訴訟ないし第四訴訟の提起時に於て、香港に住居所を有しておらず、事業活動も何ら行っていない。

従って、香港裁判所は、本件香港訴訟について、間接的一般管轄を有しておらず、本件香港訴訟の判決並びにこの判決に基づく本件命令等は、間接的一般管轄を欠いており、我国に於て承認の対象とはならない。

即ち、

① 本件香港第二訴訟について、原審裁判所は、第一訴訟との間で我国民事訴訟法第二一条により併合管轄を認定した。

しかし、本件香港第二訴訟は、併合管轄以外に何ら連結点をもたないのであるから、本件の如き国際事件に於て我国民事訴訟法第二一条を適用して、主観的併合を理由とする国際裁判管轄は認められない。

従って、本件香港第二訴訟に於ける国際裁判管轄権は、訴え提起時の相手方である上告人らの住所地・営業所の所在地の我国裁判所に属し、香港裁判所には属さないものというべきである。

② 本件香港第三訴訟について、原審判決は、我国民事訴訟法第五条により、被上告人らの住所地である香港を義務履行地と認定した。

しかし、国際事件に於ける我国民事訴訟法第五条の適用については、原審判決の如く無制限に適用すべきではない。即ち、

義務の履行地が国際裁判管轄の原因として合理性を有する所以は、債権者がその地における義務の履行を予期していることから、その地での応訴を要求しても不当ではないと解されるからであり、本件の如く金銭債務の請求であるような場合には、その合理性は著しく希薄なものとなり、従って、日本に居住する上告人らが、応訴を強いられることとなって、その利益が不当に害されることになり不合理な結果を招くことになるから、これを制限的に解すべきである。

従って、本件香港第三訴訟に於ける国際裁判管轄権は、当事者間に於て義務履行地の合意もないのであり、訴え提起時の相手方である上告人らの住所地・営業所の所在地の我国裁判所に属し、香港裁判所には属さないものというべきである。

第五 原審判決は、民事訴訟法第二〇〇条二号(送達・応訴)について、次のとおり法律の解釈適用を誤って、本件訴訟費用負担命令等の送達及び応訴を認定した違法がある。

一 原審判決は、右の点について、

「(二) ところで、本号の趣旨が被告として防御の機会を与えられないで敗訴した日本人を保護するところにあること、及び「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」第一〇条(a)の趣旨からすれば、送達の適法性に関しては、現実に起訴及びその内容を了知でき、防御できるような送達方法で呼出しを受ければ足り、必ずしも同条約に基づく国際司法共助手続による送達を必要としないと解するのが相当である。」(第一審判決三〇枚目表十二行目乃至同裏六行目)旨判示し、

本件訴訟費用負担命令等の送達は、

「(1) 原告らは、一九八八年五月、本件判決中の命令の変更を求める申立をしたが、その際、第三当事者訴訟の当事者である被告ら三名に訴訟代理人がいなかったので、チャン香港最高法院主事から、被告ら三名を代理し、管轄外の第三当事者(サードパーティ)に対して、ノーティス・オブ・モーションを送達する許可を得て、同年七月二六日、内藤正明弁護士により、その副本が日本国に居住・所在する被告らに対し、適法に交付送達された。」(第一審判決三一枚目表十二行目乃至同裏六行目)旨判示した。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、次のとおり法律の解釈適用を誤り、且つ判断を逸脱した違法がある。

(一) 原審判決の認定に係る「直接交付」による送達方法は、「民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約」第一〇条(a)並びに「日英領事条約(昭和四〇年九月二九日条約第二二号)のいずれにもその定めはない。

従って、右の諸条約による国際司法共助手続が利用できる以上、これら条約を遵守履行しないでなされた当事者の直接交付による送達は、たとえ、上告人らの応訴があったとしても、その違法性は治癒されず不適正なものである。

(二) しかも、原審判決は、国際司法共助手続によらないで、本件直接交付による送達を適正と認定するについて、その直接の理由を明示していない違法がある。

(三) 又、「本来、裁判上の送達は、私人間の自由意思に委ねられるものではなく、裁判権の命令的及び公証的行為」(藤田泰弘・判例タイムズ三五四〇号九七頁四段目二六行目乃至二八行目)であり、本件直接交付による送達は、日本国に対する関係では、単なる事実行為にすぎず、日本国内にいる日本人にとって、それは単なる事実上の通知行為に止まるものである。

したがって、本件直接交付による送達は、日本国内に於て上告人らに対し、香港裁判所のためにする公権的告知があったとはいえず、それは単なる事実上の通知にすぎないものといえる。

(四) 更に、外国からの送達であるが故に、日本国内での送達と異なる本件のごとき直接交付による送達方法を認めてまで、被上告人らに便宜をはからなければならない実質的理由はないのである。

以上のとおり、司法共助手続に関する所定の手続を履践していない本件直接交付による送達は、民事訴訟法第二〇〇条二号の要件を満たしていない。

(五) 次いで、応訴についても、次のとおり応訴管轄は成立していない。

① 応訴管轄が有効に成立するためには、上告人らが何らの留保を唱えず、本案に対し答弁することが必要である。本件上告人らは、本件香港訴訟において被上告人らの反訴及び第三当事者訴訟において答弁しており、第三当事者訴訟に対し反訴をしているが、それぞれの事件について香港裁判所の管轄を争う旨主張しており、この旨の主張が裁判所に否定された後、本案について答弁し、また、反訴を提起したにすぎない。

したがって、本件においては、応訴管轄は成立しえないのである。

② このことは、甲第一三号証(意見書)及び同一四号証(供述書)からも明白である。

甲第一四号証の第七節により、本件第三当事者訴訟の上告人らの代理人が(フーズナリー・ネオ法律事務所)が一九八六年一〇月、香港裁判所の管轄を争ったことは上告人の代理人が自認している(三頁)。甲第一三号証の第五節も同趣旨である。

さらに、上告人らが、第三当事者訴訟に関し管轄に異議を申立ている旨認めている(被上告人ら第一審裁判所平成四年四月八日付準備書面第二の二、記載)。

③ また、被上告人らは、上告人ゴビンドラムの被上告人らに対する反訴につき、上告人らが管轄に異議を述べたが却下され本案の審理がされた旨自白している(平成四年六月二日付準備書面第一の三、記載)。なお、乙第二号証(供述書)において、第三当事者は、上告人らの請求の事物管轄権は外国にあり香港にはない旨及び第三当事者訴訟は裁判管轄を欠く旨主張している。

第六 原審判決は、民事訴訟法第二〇〇条三号(公序良俗に反しないこと)について、次のとおり法律の解釈適用を誤って、公序良俗に違反しないと認定した違法がある。

一 原審判決は、右の点について、

「(一) 本号は、「外国裁判所ノ判決カ日本ニ於ケル公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反セサルコト」と規定するところ、同号は外国裁判所の判決内容がわが国の公序良俗に反しないことのほかその成立手続についてもわが国の公序良俗に反しないことを要求している趣旨と解するのが相当である(最高裁判所昭和五八年六月七日第三小法廷判決、民集三七巻五号六一一頁参照)。」(第一審判決三二枚目表十三行目乃至同裏六行目)旨判示して、成立手続並びに内容の両面から公序良俗に反しないとの認定している。

二 しかし乍ら、原審判決の前記認定には、次のとおり法律の解釈適用を誤った違法がある。

(一) 原審判決は、手続的公序に関する判断に於て、外国判決の承認の際には、当該外国判決成立手続に固有の具体的な当事者の手続行為を問うべきではないにもかかわらず、本件香港判決並びに本件命令等手続について、具体的な瑕疵の存否を検討している違法がある。

(二) 本件訴訟費用の負担命令には、原審判決も認定しているとおり、弁護士費用が包含されており、懲罰的な意味が含まれている。

我国の民事訴訟法に於ける訴訟費用とは、「特定の民事訴訟を追行するために、訴訟の裁判所の係属前または係属後に当事者が支出した必要費のうち、民訴費用法に費用と認められたものをいう(形式的訴訟費用)」(注釈民事訴訟法(2)四〇七頁)のであるから、前記弁護士費用が訴訟費用に含まれないことは明らかである。

これは全額の多寡にかかわらず、懲罰的損害賠償を命じる外国判決の問題として判断される必要があり、我国の公序に反し許されない。

(三) 更に、本件香港判決は、次のとおり、被上告人らの詐取的な取得によるものというべきであり、手続的公序に違反する。

香港裁判所の結論は、判決文の最後に要約されているが、「香港裁判所は、日本の裁判所には民法第一条の原則を広く適用する裁量権が与えられており(特に原文第三八項五行目から六行目には、It simply leaves a large mea-sure of discretion to the course.すなわち、日本の裁判所に大きな裁量権が与えられていると誤解している。)、日本の裁判所へ提訴された場合には該合意書(甲第一六号証)は、無効とされるものと解釈し、その前提の基に香港の裁判所においても、無効と判示したものである。」(当裁判所には、甲第一〇号証原文四四頁の結論部分ⅰないしⅳについて特に精査いただきたい。)

(訳文)

当裁判所の結論は要約すると次のようになる。

(ⅰ) 保証契約の準拠法は日本の法律である。

(ⅱ) 日本の法律においては、原告に対しては当該保証契約は強制し得ない性格のものである。

(ⅲ) しかし、日本法の実際の適用においては、大変広汎な裁量が可能であるので、当裁判所は本訴の管轄権の存在を否定し、原告の請求を却下する。

(ⅳ) 日本法の適用につき管轄権を否定することにより、原告の請求を棄却する代わりに、香港法の適用を行うこととなる。そこで、当裁判所の判断では、香港法においても原告の請求は(自己の不当な行動のために)、認められないものとなると思われる。

しかし、香港裁判所が右判決の結論に至ったのは、本件香港裁判所が日本法の適用(解釈)について無経験であったため、右事件の証人(我国法律専門家)の証言内容に依存し、被上告人らと本件香港第一訴訟の当事者である訴外インド銀行との間に不法ないし非倫理的共謀行為があったものと心証を有するに至らしめた誤導により取得したものといえる。

第七、原審判決は、民事訴訟法第二〇〇条四号(相互保証)について、次のとおり法律の解釈適用を誤り、且つ判断を逸脱して、我国と香港に於ける相互保証の存在を認定した違法がある。

一、 原審判決は、右の点について、

「(一) 本号は、承認国であるわが国と判決(裁判)国との間に「相互ノ保証アルコト」を要求しているところ、「相互ノ保証アルコト」とは、当該判決(裁判)をした外国裁判所の属する国において、わが国の裁判所がした判決(裁判)と同種類の判決(裁判)が民訴法二〇〇条各号所定の条件と重要な点で異ならない条件のもとに効力を有するものとされていることをいうと解するのが相当である(最高裁判所昭和五八年六月七日第三小法廷判決、民集三七巻五号六一一頁参照)」。(第一審判決三五枚目表九行目乃至同裏三行目)旨判示し、

「(二) そこで本件について検討するに、成立に争いのない甲第六、第七号証及び本件鑑定によれば、香港には外国判決の取扱に関する制定法として「外国判決(相互執行)法」が成立しており、同法三条には、香港総督は、ある国と香港との間に実質的な相互の保証があると認めるときには、その国に同法を適用することを規則をもって命じることができる旨規定されており、右規定に基づき制定された「外国判決(相互執行)規則」には、総督が香港との間に判決の取扱に関して相互の保証があると認める外国が列挙されているところ、わが国は右相互の保証がある外国には挙げられていないことが認められる」(第一審判決三五枚目裏四行目乃至同三六枚目表一行目)旨判示し、

「わが国と香港との間の外国判決承認に関する相互の保証の有無は、コモンローの諸原則に照らして判断されるべきこととなる。」(第一審判決三七枚目表七行目乃至九行目)と判示のうえ、

原審判決は、コモンローにおける外国判決承認として五つの要件を認定し、我国の承認要件と比較のうえ、その結論として、

「香港において、外国判決の承認に関しては、イギリスのコモンローの原則が行われており、コモンローの下での外国判決の承認要件は、わが国の承認要件と重要な点で異ならないものということができ、よって、わが国と香港との間には相互の保証があるものと認めるのが相当である」(第一審判決三九枚目裏九行目乃至四〇枚目表一行目)と認定した。

二、しかし乍ら、原審判決の前記認定は、次のとおり法律の解釈適用を誤って、我国の承認要件と比較検討して認定した違法並びにコモンローにおける外国判決承認の要件の職権調査を十分にせず審理して判決した違法がある。

(一) 英国のコモンロー裁判所の手続では、

「執行判決ではなく、外国判決にもとづく訴えの提起を要する国(オランダ、イギリスなど)は、実質的には執行判決と大差ないとしても、外国判決そのものの効力を承認するのではないから、相互の保証ありとすることはできない(もっとも、英連邦では国際的な取極めによって外国判決承認法の付表に加えられたときは、相互の保証があることにならう)」(高桑昭「外国判決の承認及び執行」新・実務民事訴訟法編座(7)一四五頁・日本評論社刊)

として、我国判決について相互保証を与えたものといえないとされている。

従って、原審判決は、これを相互の保証があると認定した違法がある。

(二) 又、コモンロー上では、その訴訟手続きにおいて、その承認と執行の許否の判断が同時的になされるのに比して、我国の場合には、その承認は自動的になし、執行についてのみ判決手続においてその許否が判断されるものであるから、制度そのものが相違しており、原審判決はこの点を看過して判決した違法がある。

即ち、上告人らが提出の乙第四号証によれば、前記の外国判決(相互執行)法に基づく外国判決の取扱いと、コモンロー上の外国判決の取扱いとの間には、香港においても格段の相違があることが判明している。コモンロー裁判所の外国判決の取扱いにおいて多くの抗弁が、慎重に取り上げられるのであり、通常二年間の審理期間が必要とのことである。わが国民事訴訟法第二〇〇条、民事執行法二四条の執行判決とは大変な手続上の相違がある。

(三) 更に、我国民事訴訟法第二〇〇条四号(相互保証)の要件の有無については「承認又は執行判決付与の可否を判断する時に存することを要し、かつそれで足りる」(青山善充・注解民事執行法(1)・四〇六頁・第一法規出版(株)刊)とされているところ、本件は執行判決を求めているのであるから、口頭弁論終了時を基準として判断されることとなる。そして、相互保証の有無は職権調査事項でもある。

特に、日本の裁判所でなされた確定判決に関し、英国の裁判所において、事実審を経ずして日本裁判所の判決の執行を承認した簡易判決が存在するとの証拠は一切提出されていない。このことは、現在のところ、英国の裁判所が日本の裁判所の判決を承認していないことを意味し、相互保証の要件が充たされていないことを示している。まして一九九七年には中国に併合される香港の現状を考えると、より一層慎重な態度が望まれる。

また、「コモンロー」は、変遷する社会の要請に応じて形成されるものであり、制定法とは異なり、わが国の判例法に類似するものであるから、その意味では必ずしも確定したものとは言い難く、管轄その他コモンローの内容は、順次変化するのであるから、その検討には裁判所に於て十分な調査が必要である。しかるに、原審判決は、当事者間においてコモンローの内容に争いがあるにもかかわらず、甲第六号証、甲第七号証、甲第一三号証に従ってのみ判決したものであり、乙第四号証の意味を充分に理解せず、本件口頭弁論終結時において、職権による右コモンロー上の外国判決承認の前記各要件の有無並に具体的内容について、十分な調査をなさずに判決した違法がある。

以上次第で、原審判決は、民事訴訟法第三九四条、同第三九五条により破棄を免れないものである。

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